【図解で整理】ISO9001:2015要求事項の全体像|改訂ポイントとPDCAサイクルを解説
本記事では、ISO9001:2015の要求事項の関連性を示した図解を用いて、各箇条がどのPDCAサイクルに対応しているかをわかりやすく解説しています。図を確認することで、規格の意図や要求事項のつながりを直感的に理解でき、組織内での教育や研修にも活用いただけます。
ISO9001:2015は、品質マネジメントシステム(QMS)の国際規格として大幅な改訂が行われ、従来版(2000年版・2008年版)から進化しました。
今回の改訂では、リスクベース思考の導入、利害関係者の要求事項の考慮、文書化要求の柔軟化、トップマネジメントのリーダーシップ強化といった新しい要素が追加され、組織の持続的成功に直結する仕組みが整えられました。
また、附属書SLの採用によりISO14001やISO27001など他のマネジメントシステム規格との整合性が強化されたことにより、ISO9001:2015の構成は「箇条1~10」の統一構造に整理され、PDCAサイクルの三層構造(組織全体の戦略的PDCA、品質マネジメントシステム構築のPDCA、製品・サービス提供のPDCA)が明確化されました。
ISO9001:2015の改訂点や附属書SLの背景、そしてPDCAサイクルとの関連性を図解とともに整理しています。規格の意図を理解しやすいガイドとしてお使いいただけます。
附属書SLの採用
ISO9001:2015は、従来版(2000年版・2008年版)と比較すると、技術的内容が大幅に変更されています。
ただし、規格の目的、タイトル、適用範囲といった基本的な位置づけは継承されており、品質マネジメントシステム(QMS)の根幹は維持されています。
ISOでは、2006年から2011年にかけて、ISO9001、ISO14001、ISO/IEC27001 など複数のマネジメントシステム規格(MSS)の整合性を確保するための議論が行われました。
その結果、ISO/TMB(技術管理評議会)/TAG13-JTCG(合同技術調整グループ)により、以下が開発されました。
- MSS上位構造(HLS)
- MSS共通テキスト(要求事項)
- 共通用語・定義
これらは「ISO/IEC 専門業務用指針第1部統合版 ISO補足指針」「附属書SL(規定)」として発行され、今後すべてのMSSに適用されることとなりました。これにより、異なる規格間で統合マネジメントシステムを構築しやすくなっています。
ISO9001:2015改訂における主要な特徴
ISO 9001:2015の改訂には、以下のような特徴があります。
- リスクベース思考の導入
2015年版では「予防処置」という概念が削除され、代わりにリスクベース思考が全体に組み込まれました。組織がリスクと機会を体系的に捉えることが求められています。 - 利害関係者の要求事項
顧客だけでなく、規制当局、供給者、従業員など幅広いステークホルダーのニーズを考慮することが強調されています。 - 文書化要求の柔軟化
「品質マニュアル」「手順書」という従来の表現はなくなり、「文書化した情報」という包括的な概念に置き換えられました。組織の規模や状況に応じて柔軟に対応できるようになりました。 - リーダーシップの強化
トップマネジメントの役割が明確化され、品質方針や目標の設定、組織文化の醸成に積極的に関与することが求められています。
規格の構成も、附属書SLに基づき、ISO9001:2015は「箇条1~10」の統一構造を採用するようになりました。特に箇条4「組織の状況」、箇条5「リーダーシップ」、箇条6「計画」では、新設や強化されました。
具体的に追加や大きく改訂された要求事項(赤字)は、以下のようになります。
- 4 組織の状況
- 4.1 組織及びその状況の理解
- 4.2 利害関係者のニーズ及び期待の理解
- 4.3 品質マネジメントシステムの適用範囲の決定
- 4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス
- 5 リーダーシップ
- 5.1 リーダーシップ及びコミットメント
- 5.2 方針
- 5.3 組織の役割,責任及び権限
- 6 計画
- 6.1 リスク及び機会への取組み
- 6.2 品質目標及びそれを達成するための計画策定
- 6.3 変更の計画
- 7 支援
- 7.1 資源
- 7.2 力量
- 7.3 認識
- 7.4 コミュニケーション
- 7.5 文書化した情報
- 8 運用
- 8.1 運用の計画及び管理
- 8.2 製品及びサービスに関する要求事項
- 8.3 製品及びサービスの設計・開発
- 8.4 外部から提供されるプロセス,製品及びサービスの管理
- 8.5 製造及びサービス提供
- 8.6 製品及びサービスのリリース
- 8.7 不適合なアウトプットの管理
- 9 パフォーマンス評価
- 9.1 監視,測定,分析及び評価
- 9.2 内部監査
- 9.3 マネジメントレビュー
- 10 改善
- 10.1 一般
- 10.2 不適合及び是正処置
- 10.3 継続的改善
要求事項から見るPDCAサイクルの明確化
実際に、組織にISO9001:2015を適用させて、品質マネジメントシステム(QMS)を導入する際しては、ISO9001:2015要求事項の関連性を見ることで、より要求事項の意図を理解することができます。
ISO9001:2015には、以下の3つのPDCAサイクルを元に構成されています。
組織全体としての品質マネジメントシステム(QMS)のサイクルを示す要求事項と、製品及びサービスに関するサイクルを示す要求事項、そして実際に製品及びサービスを提供するためのサイクルとが関連する要求事項が存在しています。
以下のA)及びB)のほとんどは、附属書SLの要求事項からであり、C)は製品及びサービスの提供に関わるという品質マネジメントの固有の性質から規定されています。
- A) 組織が自律的に製品及びサービスを通じて顧客に価値を提供することで持続的成功を目指すため
組織が内部、外部の課題を把握し、利害関係者のニーズなどを考慮して、経営目的の達成のためにどのような製品及びサービスを提供し、顧客に価値をもたらすかという、持続的成功を目指して組織が進むべき方向を自律的に決めるPDCAサイクルです。
PLAN : 「4 組織の状況」「5 リーダーシップ」
DO : B) および C) のPDCAサイクル全体
CHECK : 「9 パフォーマンス評価」
ACT : 「10 改善」 - B) 製品及びサービスに関連する品質マネジメントシステム構築
A)の組織の方針を反映しながら品質マネジメントシステムを構築するPDCA サイクルです。このサイクルは、箇条6から箇条10により構成されます。
PLAN : 「6 計画」「7 支援」
DO : 「8 運用 (C) のPDCAサイクル全体)」
CHECK : 「9 パフォーマンス評価」
ACT : 「10 改善」 - C) 製品及びサービスを顧客に提供するため
箇条8の製品及びサービス提供に関連する要求事項に基づくPDCAサイクルです。
PLAN : 「8.1 運用の計画及び管理」「8.2 製品及びサービスに関する要求事項」「8.3 製品及びサービスの設計・開発」「8.4 外部から提供されるプロセス,製品及びサービスの管理」
DO : 「8.5 製造及びサービス提供」「8.6 製品及びサービスのリリース」



